聞き上手が発見する地域の宝物:商店街ぶらり取材の魅力

最終更新日 2025年7月9日

夕暮れ時の商店街。

軒先から漏れる温かな明かりと、「いつもありがとう」という店主の声が、帰り道を急ぐ人々を優しく包み込みます。

私が商店街の取材を始めたのは、地方新聞社の記者時代でした。

当時は締め切りに追われる毎日でしたが、商店街の取材だけは不思議と時間を忘れてしまうんです。

なぜでしょう。

それは、一軒一軒の店に「聞き上手」として耳を傾けることで、思いがけない宝物が見つかるからかもしれません。

福岡で生まれ育ち、今は大阪で暮らす私が、二つの土地で出会った商店街の魅力と、「聞き上手」だからこそ見えてくる地域の宝物について、皆さまにお伝えしたいと思います。

商店街に潜む地域の宝物

「聞き上手」だからこそ引き出せる店主の物語

「実はな、この店の暖簾、もう50年になるんよ」

大阪・天神橋筋商店街の老舗和菓子屋で、店主の田中さん(仮名)がそっと打ち明けてくれました。

私は普段、取材の際に「良い聞き手になること」を心がけています。

それは単に相槌を打つだけではありません。

相手の言葉に込められた思いを受け止め、時には沈黙も大切にしながら、その人の物語に耳を傾けることです。

実は、この「聞き上手」になることについて、「うまく『聞ける人』と『聞けていない人』の習慣」という本で詳しく学んだことがあります。

その経験も、今の取材スタイルの基礎となっています。

【聞き上手の基本姿勢】
      ↓
    共感力
      ↓
   沈黙の尊重
      ↓
 相手のペースを守る

田中さんは、その暖簾にまつわる思い出を、ゆっくりと語り始めました。

戦後間もない頃、お父様が一針一針手縫いで仕上げた暖簾。

店の歴史とともに風雨に耐え、今では商店街の歴史を静かに見守る証人となっているのです。

どの街でも感じる、地元ならではの温かさ

商店街の魅力は、地域によって実に様々です。

福岡の柳橋連合市場では、威勢の良い掛け声と笑顔が行き交い、大阪の天神橋筋商店街では、関西弁の温かな掛け合いが響きます。

一見まったく異なる雰囲気にも思えますが、地域の人々の暮らしに寄り添う温かさは、どこでも変わりません。

地域の宝物は、決して派手なものばかりではありません。

むしろ、日常の何気ないやりとりの中にこそ、その街らしさや人々の絆が詰まっているのです。

取材スタート前の準備と会話の糸口

下調べ:店主の歴史や商店街の背景を知るコツ

取材の成功は、その前の準備で決まると言っても過言ではありません。

私が新人記者だった頃、ベテラン先輩から教わった言葉が今でも心に残っています。

「お店の歴史を知ろうとする姿勢は、その店への敬意になる」

実際、事前の下調べは、単なる情報収集以上の意味を持ちます。

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▼ 効果的な下調べのポイント ▼
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商店街の歴史 ──→ 地域の変遷
     ↓
各店舗の特徴 ──→ 代表的な商品
     ↓
周辺環境の把握 ──→ 地域との関わり

特に注目しているのは、その商店街ならではの季節の行事伝統的なイベントです。

例えば、福岡の柳橋連合市場では、正月用の食材を求める人々で賑わう年末の様子が、40年以上前から変わらない光景として語り継がれています。

このような背景を知っておくことで、店主との会話もより深みのあるものになっていきます。

自然な会話を生む、あいさつと質問の組み立て方

「今日は、どんなお客さんが多かったですか?」

これは、私がよく使う最初の質問です。

シンプルでありながら、店主の方が答えやすい質問から始めることで、自然な会話が生まれやすくなります。

取材では、以下のような段階を意識しています:

┌─────────────┐
│ 第一段階    │
│ 雰囲気作り  │
└──────┬──────┘
       ↓
┌─────────────┐
│ 第二段階    │
│ 信頼関係構築│
└──────┬──────┘
       ↓
┌─────────────┐
│ 第三段階    │
│ 本題への展開│
└─────────────┘

特に大切にしているのは、急がないことです。

店主の方が話しやすいペースを大切にしながら、時には商品の話題や天候の話など、日常的な会話を交えていきます。

「このお漬物、私の実家でも作っていたんですよ」

このように、自分の経験を少し交えることで、相手も親近感を持って話してくださることが多いんです。

時には、次のような会話の糸口も効果的です:

  • 店先に飾られている写真について尋ねる
  • 季節の商品に関する話題を出す
  • 地域のイベントについて触れる

ただし、これらはあくまでも会話のきっかけ。

その後は、店主の方が話したいと思われることを察知しながら、自然な流れで話を深めていくことを心がけています。

エピソード:深く語り合った商店街の声

おばあさん店主との出会いが変えた取材スタイル

福岡の地方新聞社で記者をしていた頃のことです。

ある日、小さな乾物屋の取材に訪れました。

「あんた、お茶でも飲みながら行きましょうか」

店主の村井さん(仮名)は、80代とは思えない凛とした佇まいの方でした。

最初は締切を気にして、早々に取材を切り上げようと考えていた私。

でも、村井さんが淹れてくださった一杯のお茶が、その後の私の取材スタイルを大きく変えることになったのです。

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▼ 心に残った言葉 ▼
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「急がんでええよ。
 話というのは、
 ゆっくり育てていくもんやから」
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その日、村井さんは戦後間もない頃の商店街の様子を、まるで昨日のことのように生き生きと語ってくださいました。

物資が不足する中でも、お客さんの分まで心配して商品を取り置きしていた話。

ご近所どうしで助け合いながら、子どもたちを育ててきた思い出。

時間をかけてじっくりと耳を傾けることで、その場所に刻まれた歴史や人々の絆が、鮮やかに浮かび上がってきたのです。

店先で交わす何気ないやりとりに見える街の文化

大阪の商店街で印象的だったのは、お客さんと店主の掛け合いの温かさです。

「いつもの」という言葉一つで通じ合う関係。

値引きの交渉も、まるで長年の友人同士の会話のように和やかです。

┌────────────────┐
│ 日常の会話から │
│ 見えてくるもの │
└───────┬────────┘
        ↓
┌────────────────┐
│・地域の気質    │
│・信頼関係      │
│・文化の継承    │
│・暮らしの知恵  │
└────────────────┘

特に心に残っているのは、天神橋筋商店街の八百屋さんでの光景です。

「おばちゃん、今日の大根やわらかいよ。煮物にしたら最高やで」

店主の細やかなアドバイスに、常連のお客さんが笑顔で応える。

その何気ない会話の中に、世代を超えて受け継がれる食文化や、地域の人々の暮らしの知恵が詰まっていることに気づかされました。

取材を重ねるうちに、私は単なるインタビュアーではなく、その街の文化を記録する役割も担っているのだと実感するようになりました。

時には、撮影機材を置いて、純粋に会話を楽しむことも大切です。

そんな自然体での関わりの中から、思いがけない話題が飛び出すことも少なくありません。

「聞き上手」が見つける新しい発見

普段は見落としがちな地域の魅力を再認識

私たちは普段、商店街を「買い物をする場所」としか見ていないかもしれません。

でも、「聞き上手」として耳を傾けていくと、そこには想像以上の深い物語が広がっています。

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▼ 商店街に息づく見えない価値 ▼
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     人と人との絆
         ↓
     生きた歴史
         ↓
    暮らしの知恵
         ↓
     文化の継承
===============================

例えば、福岡の商店街で出会った手芸店の店主は、こんな言葉を残してくれました。

「お客さんが困っとるときは、商売抜きで助けてあげんと」

その言葉の背景には、長年にわたって地域の人々と育んできた信頼関係があったのです。

商品を並べる位置や、季節の装飾一つにも、実は深い意味が込められています。

これらの「当たり前」の中に、実は地域の宝物が隠れているんです

後世に残したい、人々が紡ぐ伝統や思い

取材を通じて痛感するのは、商店街には記録に残らない貴重な知恵や伝統が数多く存在するということ。

大阪の商店街で、こんな場面に出会いました。

老舗の漬物屋さんで、店主が若いお客さんに漬物の食べ方を丁寧に説明していたのです。

┌─────────────────────┐
│ 継承される地域の知恵│
└──────────┬──────────┘
           ↓
┌─────────────────────┐
│・調理法や保存方法  │
│・季節の選び方      │
│・地域特有の味付け  │
│・暮らしの工夫      │
└─────────────────────┘

そこには単なる商品説明以上の、世代を超えた文化の伝承があったように感じます。

私たち取材者の役割は、このような何気ない場面に潜む価値を見出し、それを言葉として残していくこと。

そのためには、表面的な会話で満足せず、その奥にある思いや歴史に耳を傾ける必要があります。

「この味付けは、うちの店の創業時からの秘伝なんです」

「この商品の並べ方には、先代の教えが生きているんですよ」

そんな一言一言の中に、実は地域の歴史や文化が凝縮されているのです。

取材を重ねるたびに感じるのは、私たちが記録し伝えていかなければ、これらの貴重な知恵や伝統が、いつの間にか失われてしまうかもしれないという危機感。

だからこそ、「聞き上手」として、より深く、より丁寧に、人々の声に耳を傾けていきたいと考えています。

まとめ

夕暮れ時の商店街に、再び足を向けてみませんか。

シャッターを下ろす音に混じって聞こえる「お疲れさま」の声。

立ち止まって耳を澄ますと、そこには確かな人々の営みが息づいています。

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▼ 取材から見えた
  商店街の宝物 ▼
================
   人々の絆
     ↓
   生きた歴史
     ↓
   知恵と伝統
     ↓
   文化の継承
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商店街をぶらり歩く取材の魅力は、実はとてもシンプルなことにあります。

それは、人と人とが出会い、語り合い、理解を深めていく、その純粋な喜びです。

私たち「聞き上手」の役割は、その出会いの中から生まれる物語を丁寧に受け止め、記録し、そして伝えていくこと。

福岡の柳橋連合市場で耳にした威勢の良い掛け声も、大阪の天神橋筋商店街で交わされる温かな会話も、すべてがかけがえのない地域の財産なのです。

時には足を止めて、耳を傾けてみてください

すると、あなたの目の前で、思いがけない宝物が輝き始めるかもしれません。


💡 明日からできる、「聞き上手」の第一歩

┌────────────────────┐
│ 立ち止まる勇気    │
└──────────┬─────────┘
           ↓
┌────────────────────┐
│ 耳を傾ける姿勢    │
└──────────┬─────────┘
           ↓
┌────────────────────┐
│ 共感する心        │
└────────────────────┘

私たち一人一人が「聞き上手」となって、地域の声に耳を傾けることで、商店街はより豊かな物語で彩られていくはずです。

そして、その物語は必ず、次の世代へとつながっていくのです。

さあ、あなたの街の商店街で、どんな宝物が見つかるでしょうか。

その発見の旅に、今日から出かけてみませんか。